『バイオフィリア』~ただ森を歩き自然に触れるだけで病気への抵抗力が高まるという事実

ドイツの社会心理学者エーリッヒ・フロムが『バイオフィリア(生物や自然への愛情)』という概念を初めて提唱したのは1964年、その著書「悪について(岩波新書)」の中でした。

人間には、生物や生気に引きつけられる心理的傾向がある

人が何かを求めるのは幸・不幸の判断に基づくものであり、進化した脳は自ずと自分自身が幸福か不幸かを判断します。

進化の過程においてはこの判断こそ、ある種が生き残れるかどうかの分かれ道でした。

実際には空腹で疲れ果て、身体は傷つき衰弱しているにもかかわらず、それを正しく認識できず「何の問題も無し!」という信号が脳に送られるとしたら、その生物が生き残る可能性は低いでしょう。ちょうどそれは薬物中毒患者のようなものです。

自然

幸せのルール

人間の幸せは生物として快適かどうかにかなり依存していているのに、私たちは長い間進化が定める幸福のルールに反する生き方を選択してきたせいで、身体本来の機能を弱体化させ、病気がちになっていないでしょうか。

「人間は潜在的に他の生物や自然への愛情を備え、結びつきを求める本能を生得的に備えている」という仮説のうえに成り立つこの主張を、本家本元のエーリッヒ・フロムよりも熱烈に支持しているのがアメリカの社会生物学者エドワード・オズボーン・ウィルソン博士です。

人間は本当にそれ程自然を求めているのでしょうか?

E・O・ウィルソン博士によるとバイオフィリアは人間の本質の一部であり、その真の力は”生得的”というところにあります。つまりそれは進化によって私たちに埋め込まれていることを意味します。

この仮説は多くの実験によっても検証されています。

医師であるエバ・M・セルフーブと自然療法医のアラン・C・ローガンは2012年の共著書「自然とあなたの脳(Your Brain on Nature)」の中で世界中から集まった事例を紹介しています。

例えば

  • テキサス州の成人ケアセンターの被験者は庭にいるだけでストレスホルモンであるコルチゾールのレベルが下がった
  • 脳電図を用いた研究で、室内に植物があると被験者のストレスの度合いが下がった
  • 日本で行われた別の研究で被験者に自然の風景を20分間見せると心拍数が下がった

ドライブ中に素晴らしい景色を見つけた時

バイオフィリアという概念は厳しい科学的検証にも十分耐えうるものですが、ごく普通の日常を思い浮かべてみただけでも容易に理解できます。

海を見渡せるウォーターフロントのマンションは相変わらず高値で売買されていますし、都心の公園周辺のマンションは軒並み高い人気と不動産価値を持っています。

もっとシンプルに、森の中の小路を歩く時やビルが立ち並ぶオフィス街で街路樹に囲まれた遊歩道を見つけた時、ドライブ中に素晴らしい景色を見つけた時に私たちが取る行動が、バイオフィリアの何よりの証拠となります。

捕食者に食べられる事を常に警戒してきた動物たち同様に人間も見晴らしの良い場所を好み、水が利用できてしかも安全に眠れる場所を中心に何千年も暮らしてきたのです。

バイオフィリア

自然と向き合う時間が増えると好むと好まざるとに関わらず、大人も子どもも様々な微生物に触れることになります。これは人の腸内に住む微生物群、マイクロバイオームを支えもし、免疫系を鍛えてその調子を整えるのにも役立ちます。

日光浴で体内のビタミンDの量は改善する

又、外で遊び日光の全スペクトルを浴びるとメラトニンが分泌され睡眠のサイクルが調整されるという利点もあります。

1980年代のオゾンホール発見等オゾン層の破壊が取り上げられ、紫外線は有害であるとの考え方が浸透し、太陽光をなるべく浴びないようにするという風潮が広まってきたことから現代人は慢性的にビタミンD不足です。

夏場なら30分、冬でも1時間程度の日光浴で体内のビタミンDの量は健康的なレベルまで改善されるはずです。

こうした事すべてがバイオフィリア理論が説く、私たちは自然の中で暮らすように進化し、故にすべての生物(バイオ)が暮らす自然を愛する(フィリア)のだという主張を裏付けています。

”森林浴”は日本独自の言葉

”森林浴”は日本独自の言葉で、英語でこれに対応する単語はありません。乾燥した地域では、一度木を伐採してしまうと、むきだしの土が強い太陽に照らされ、すぐに砂漠化してしまいます。森林の復元力が強い日本は大変恵まれているといえます。

オランダで行われたある研究で、195人の医師が34万人以上の患者の診療記録をもとに緑地の近くに住むことと病気の罹りやすさの相関性を調べた結果、緑地の1㎞以内に住む人は24の疾病の内15の罹患率が低く、特に不安障害とうつ病を防ぐうえで緑地が大変効果的な事が分かりました。

代替医療

フィトンチッドの働き

このような研究は近年さかんに行われていて、韓国におけるGIS(地理情報システム)のマッピングツールを利用して行われた研究では森林の存在が癌による死亡率を下げることを証明しましたし、日本でも木々や多くの植物が発散するファイトケミカル(植物由来化学物質)の一種であるフィトンチッドが嗅覚を通じて脳に働きかけ、ストレスホルモンの量を減らしたり痛みや不安を抑えたりする事がわかっています。

特筆すべきはフィトンチッドが風邪やインフルエンザなどの感染症の拡大を身体の最前線で防ぐナチュラルキラー細胞とよばれる免疫細胞の働きを強化することです。

この研究の被験者となったビジネスマンのグループは森を歩いた後、ナチュラルキラー細胞の数が40%増加しましたが、一ヵ月後の追跡調査でも基準値より15%程度高い事が確認されました。

”ただ”森を歩き自然に触れるだけで病気への抵抗力が高まるばかりか、これらの様々な恩恵を蒙ることが出来るわけです。

森の出口で高い請求書を渡される事もありません。

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