『動かない生活』がもたらす代表的な慢性疾患

TED(Technology Entertainment Design)カンファレンスは、毎年カナダのバンクーバーで開かれている世界的な講演会の名称で、著名人はもちろん、卓越したアイデアさえあれば素人にも門戸が開かれています。

根源的な問い

イギリスの神経学者ダニエル・ウォルパートは、そこで大変興味深い仮説を述べています。

彼の根源的とも言える問いかけはこうです。

「私たち人間や動物には なぜ脳があるのか?」

それに対して、大多数の人の答えはおそらくこうです。「考えるために!」

彼は言います。

「いや、それは完全に間違っています。私たちが脳を持つ理由はただ一つ  柔軟で複雑な動きを可能にすることです。これが脳を持つ唯一の理由です。」

動かなければ脳は必要ない

ウォルパートはたとえ話としてホヤを取り上げます。

ホヤは浅い海などに広く分布している原始的な海生生物ですが、幼生期には他の脊索動物と良く似た神経管・脊索などの構造をもち、しきりに海の中を移動します。

その目的はただ一つ、食料が豊富な場所を見つけて根付く事です。

そして、その目的が無事達成されるとまず最初に自分の脳を食べてしまい、後に残るのはとても単純な構造を持った神経節だけです。

もう動く必要がなくなったから脳は必要ない、というわけです。

豊かな餌場

ホヤから人にいたる進化の鎖のなかで”脳”と”動き”との間にはある相関関係がみられます。

多くの動きが求められるほど脳は大きくなっていく、というものです。

大型類人猿と比べても、更に大きな脳を持つ人間は動きに関しても他の生き物を凌駕していると言えます。

動きに魅了されるのは人間の特権

これは意外に思えるかもしれませんが、例えばバレエダンサーやスポーツ選手を思い浮かべて下さい。これほど優雅に、または洗練された動きが出来るのは人間だけです。

バレリーナ

そしてその動きに魅了され、動いている人を見ることに多くの資金と文化的資産を投じるのも人間だけの特徴と言えます。その自覚がないにせよ、やはり人間は”動き”の面でもやはり「万物の長」なのです。

新時代の神経科学によると「脳は筋肉のような物」だといいます。これはたとえ話ではなく、脳と筋肉の成長のメカニズムを探ると、そこには電気信号と生化学物質からなる見事な連鎖反応が働いています。

ホメオスタシスとホルミシス

体操選手が特定の筋肉を鍛えるとき、筋肉はその負荷の度合いによって損傷します。身体は壊れたところを元に戻そうとしますが、この時、ただ戻すのではなく新たな負荷に立ち向かえるように重量を増し、より良く作り変えられます。

この能力を”ホルミシス”といいます。聞き慣れない言葉ですね。

ホメオスタシスは衝撃や環境の変化に対して通常の状態を保とうとする機能ですが、ホルミシスとは身体に低いストレス(毒素、放射線など)がかかった時に、それを処理できるよう機能を向上させる働き全体を指す言葉です。

”炎症”や”ストレス”といった一般にはやっかいと見なされているものも実はホルミシスのなせる技であり、身体はそれらを利用して自らを作り変えているのです。

wise story…病気の症状への不安を解消するために

使わなければ失われる

身体は壊れたところを修復するだけではなく、新たな負荷に立ち向かうためにそれに見合った構造に自らを作り変え、それによって耐久性を増しますが、負荷がかからなくなると、途端に流れが逆行し始めます。

「使わなければ失われる!」のです。

そして、運動は筋肉だけでなく脳にもある種の負荷をかけるため、脳はそれに反応してBDNF(脳由来神経栄養因子)を放出します。

それが引き金となって脳細胞は成長し、運動を支える機能を果たそうとしますが、脳内に溢れたBDNFは運動に関連する部位だけでなく脳全体を潤すことが分かっています。

つまり運動は脳細胞が成長するのに必要な環境をもたらしているのです。

動かなければ衰える

動かない生活がもたらす代表的な慢性疾患

さらに現代社会に暮らすの多くの人々が抱える問題である依存症やうつ病との関係で長く研究されてきた、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンといった重要な神経伝達物質の分泌にも影響を及ぼします。
『エクササイズ – 疾患予防のための運動(エルゼビア・ジャパン)』の著者フランク・W・ブースは、筋代謝や萎縮のメカニズムといった筋肉研究の第一人者で、彼とそのグループが「応用生理学ジャーナル」に発表した研究は、今なお多くの研究者から支持されています。

その中でブース博士は動かない生活がもたらす20種類以上の「代表的な慢性疾患」を挙げているのは肥満の他にも、うっ血性心不全、冠状動脈不全、扁桃炎、心筋梗塞、高血圧、脳卒中、2型糖尿病、脂質異常、胆石、乳癌、結腸癌、前立腺癌、すい臓癌、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、免疫機能不全、骨関節炎、関節リウマチ、骨粗しょう症、様々な神経障害…etc

これらの疾患が、”動かない生活”と密接に関連しているという動かしがたい事実はあまり周知されていません。

運動にはそれらの疾病を防ぐ、あるいは治癒する力があるという事と共に大いに喧伝されるべきです。

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