『誰も受けたくない無駄な医療行為』を減らす試み ”Choosing Wisely(賢い選択)”キャンペーン

医療の本質とは

医療の本質は人助けにあります。

しかしながら、人々が社会生活を営むための経済活動、産業、サービス業、農業などに従事し、対価としての生活の糧を得て暮らしを立てている今日、医療界も当然ながら利潤を追求しています。

それはそうなのですが、医療業界が露骨な拝金主義に傾くとその悪弊はより悲惨なものになります。

過剰な医療行為

医療は福祉とともに国民生活という大きな枠組みの中に組み込まれ機能していますが、様々な機能不全が指摘されています。

中でも、すでに1970年代からアメリカで問題が指摘されてきた”過剰な医療行為”の問題があります。
事実、アメリカで行われる医療の30%は患者に明確な利益をもたらさない、「無駄な医療」であると推定されています。

日本も似たようなものか、或いはもっとその傾向が顕著ではないでしょうか。

なにしろ、日本は世界で最も年間の医療被曝が多いとされる国のひとつです。

”Disease Mongering(病気商売)”

どんな企業であれ自社商品を販売するためには販促活動を打ち、顧客に情報を伝達するために様々なプロモーションを組み合わせて相乗効果を高めようとしますが、医療の世界も例外ではありません。

欧米では”Disease Mongering(ディジーズ・モンガリング)”と呼ばれていて、和訳すると(病気商売)、(疾患喧伝)、(病気作り)など、いろいろな訳があるようですが、要するに「病いの種を見つけ出して飯の種にする」というようなニュアンスです。

診断されていない、もしくは見過ごされる懼れのある疾病について、市民が気付くのを助けるという名目で新聞やTVなどのメディアを通じて直接語りかける、いわゆる「疾病啓発広告・キャンペーン」は、実際には医薬品の新たな使用者の開拓を目的とした製薬会社の販促キャンペーンであることが多いのですが、日本でもこの手の広告が増えてきました。

「こんな症状があったら医師にご相談ください」や「こんな時はお医者さんに行ってみよう」というのもこのタイプのCMです。

医療機関

診療報酬で変わる医療行為

ここでの問題は大きく2つあります。

利益を最大化する目的で医療行為が行われる場合と、医師がリスクを避けたい場合に起きる弊害です。

医療側も敢えて無駄な医療を施したいと思っているわけではないのでしょうが、検査をすればするだけ儲かる、薬を出せば出すほど儲かる、といった出来高払い方式の体制であれば、どうしても医療行為が過剰になります。

「念のために」という理由で横行しているCT検査も基本的に必要ないばかりか無意味、もしくは有害なものが多く、被爆のリスクも無視できないのですが、診療報酬という理由の他に、思わぬ見落としからくる患者とのトラブルを避けたい医師の心理もあります。

逆に診療報酬を包括払いにすれば、医療機関が医療を経済的に効率よく行う必要から、公的医療保険からの無駄な支出が減らせる反面、医療行為を減らした方が収益上有利であるために、十分な医療を行わない可能性があります。

医療機関の都合によって医療行為の是非が決められてしまうのは困ります。

かといってその検査が必要であるか、無用なものであるかの判断は素人には不可能なものが多いのも事実です。

”Choosing Wisely(賢い選択)”キャンペーン

アメリカで2012年に始まった”Choosing Wisely(賢い選択)”キャンペーンは不要であるばかりか、患者にとって有害でさえある治療介入を減らすために60以上の専門機関が各分野の専門医師に、過剰医療を行わないための「問い直すべき5つの項目」を挙げるよう依頼したものです。

ABIM財団(米・内科専門医認定機構財団)が中心となって、米国医学会の71学会が無駄な医療として250項目を名指ししていますが、その中からいくつか抜粋してご紹介します。

更に詳しく知りたい方はChoosing Wiselyにアクセスしてみてください。

このような試みは医療費の増大に喘ぐ国家にとってはもちろん、患者や、巡りめぐって医療サイドにも有益なことなのです。

誰のための医療?

Choosing Wisely

【検査】

◎自覚症状のない成人に対し、定期的な健康診断は不要である。(米・一般内科学会)

◎自覚症状がない低リスクの患者に対して、毎年のように心電図検査やその他の心臓検査を行う必要はない。(米・家庭医学会)

◎危険な徴候のない腰痛に対し、発症から6週間未満はX線撮影を行う必要はない(米・家庭医学会)

◎大腸の内視鏡検査は10年に1度で十分である(米・消化器病学会)

◎突発性難聴に対し、頭部CTは不要である(米・頭頸部外科学会)

◎頭痛に対し、脳波測定は不要である(米・頭頸部外科学会)

【癌】

◎平均余命が10年以下の成人に対しては、癌検診は不要である(米・一般内科学会)

◎乳癌が疑われる患者に対して、針生検をせずに手術に踏み切ってはならない(米・癌委員会)

◎乳癌手術では、必ずセンチネルリンパ節の検査を行う(米・外科学会)

◎早期の乳癌で50歳を越える患者の場合、放射線治療は出来る限り短期にするよう配慮せよ(米・放射線腫瘍学会)

◎肺癌のCT検査はガイドラインより頻繁に行わないこと(米・胸部医師学会)

◎前立腺癌の陽子線療法は推奨できない(米・放射線腫瘍学会)

◎前立腺癌の検診のために安易に「PSA検査」をしない(米・臨床腫瘍学会・家庭医学会)

◎低リスクの前立腺癌は安易に治療を始めない(米・放射線腫瘍学会)

【小児科】

◎4歳以下の子供の風邪に薬を使ってはならない(米・小児科学会)

◎頭部の軽い外傷に対し、CT撮影は不要である。(米・小児科学会)

◎ウイルス性呼吸疾患(副鼻腔炎、咽頭炎、気管支炎)と思われる場合は、抗生物質を投与すべきではない(米・小児科学会)

◎子供の単純な熱性けいれんに対し、CTやMRIなどの神経画像撮影は不要(米・小児科学会)

【精神科】

◎精神疾患でない若年者に「まず薬」で対処してはならない(米・精神医学会)

◎抗精神薬を安易に処方しない(米・精神医学会)

◎2種類以上の抗精神病薬を継続的に投与してはならない(米・精神医学会)

◎成人の不眠症に対し、最初の治療介入として抗精神病薬を継続的に処方してはならない(米・精神医学会)

【薬】

◎副鼻腔炎に対し、症状が6日以降も続く場合や初診時より症状が悪化している場合を除き、むやみに抗生物質を処方すべきではない(米・家庭医学会)

◎急性外耳炎に対して、合併症が無いのであれば経口抗生物質を処方すべきではない(米・頭頸部外科学会)

◎成人の慢性不眠症に対しては睡眠薬使用を中心とした治療は避け、まず認知行動療法を勧め、必要なら補助療法を検討する。(米・睡眠学会)

※ここに書かれている実施されるべきでない治療や臨床検査の多くが日本の病院では頻繁に行われています。

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