エボラウィルス病 困難な保有宿主の特定と二次感染対策

世界保健機関(WHO)によるリベリアの終息宣言

2015年5月9日、世界保健機関(WHO)は西アフリカのリベリアでのエボラウィルス病(必ずしも出血を伴わない事から、現在ではエボラ出血熱ではなく、エボラウィルス病と呼ばれています)の終息を宣言しました。

リベリアは、大流行した国の中でも、4716人(疑いも含む)と最も多くの死者を出しましたが、終息の目安としている42日間、新たな感染者が確認されなかった事から、今回の宣言となったわけです。

2013年12月にギニアで発生したエボラウィルス病は、その後2014年、西アフリカの不幸な3カ国、ギニア、リベリア、シオラレオネを中心に大発生し、世界中を恐怖に陥れました。

黒死病を凌ぐ致死率60~80%

エボラウィルス病の主な症状は発熱、頭痛、腹痛、吐き気と嘔吐、食欲不振、関節痛、筋肉痛、過呼吸、衰弱、下痢などですが、先に述べた通り、出血の有無は患者の生死を示す指標にはなりません。

一方、過呼吸や尿が出ない、あるいはしゃっくりの症状が現れると死への不気味なカウントダウンとなります。

エボラウィルスの恐ろしさは、何といっても60~80%というその致死率の高さ。

ほぼ致死率100%の狂犬病を除く感染症の致死率として、60%は非常に高く、中世のフランスを襲った黒死病でさえ、これよりは低いのです。

その後、エボラはナイジェリアに飛び火し、更に人々の不安をかき立てます。

これらの国々で、数ヶ月にわたってくすぶり続けたエボラウィルスは、数十人規模の犠牲者を出した後、8月になると急激に燃え盛り、数百人規模の犠牲者を出し続ける事になります。

エボラ患者

エボラウィルス → 森林 → 類人猿

アフリカのエボラウィルスの流行は常に森林と結びついています。従って保有宿主(体内にウィルスを温存し、無症状で生きられる生物)は森林に棲む生物と見られています。

そして、エボラ発生から次の流行までの時間的間隔(数年以上の間隔もある)があることから、保有宿主と人間の接触が比較的稀であるか、もしくはその動物が希少種である可能性があります。

1976年にコンゴと南スーダンで、初めて、ほぼ同時に出現が確認されてから約40年の間、保有宿主を特定するには至っていません。

もちろん、エボラウィルスの研究者も、手をこまねいていた訳ではなく、ガボン、コンゴ共和国などのエボラ大発生を経験した地域に足を踏み入れ、1000以上の様々な動物(222羽の鳥類、129匹のトガリネズミやげっ歯類、679匹のコウモリetc)を捕らえて得た、血液と内臓組織のサンプルを徹底的に調べ上げました。

エボラの痕跡を追う

エボラの痕跡を調べる方法は2つ。

動物の体内で、エボラウィルス感染に反応して作られる抗体を調べるやり方。

そして、もう1つはPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法という検査で、血中におけるエボラウィルスの遺伝物質の断片を探すやり方ですが、この方法は時に偽陽性反応を示すことがあり、やや信頼性に欠ける為、それぞれのサンプルに対して2度行う手順になっています。

結果、エボラウィルスに感染した疑いが濃い3種類のコウモリを突き止めました。

いずれも比較的大型で重量もあり、現地では食用として捕獲されるフルーツコウモリでした。

しかし、解剖を行ったどの動物からも生きたエボラウィルスを検出することは出来ず、コウモリとウィルスの関係を示す決定的な証拠は見つかりませんでした。

エボラ宿主

保有宿主特定の困難

コウモリから生きたウィルスを分離する事が出来て、初めて保有宿主を特定する決め手になるのです。

この研究結果は2005年に、世界の科学雑誌の中で最も権威がある「ネイチャー」に掲載されました。

題名は「エボラウィルスの保有宿主としての大コウモリ」。

文章自体は断定を避けつつ、3種類のコウモリが「保有宿主としての機能を果たしている可能性」に言及しています。

コウモリから人間に直接感染するかは分かっていませんが、大型の類人猿、ゴリラやチンパンジーから人間に感染することは分かっています。

そして、人間にエボラウィルスが流行する時、必ず近くの森林でチンパンジーやゴリラの大量死が確認されています。

おそらく、エボラウィルスのキャリアであるコウモリが齧ったフルーツを食べた類人猿間で感染が拡大したのでないか、と考えられています。

エボラ研究の困難

実際問題としてエボラの研究には、かなりの困難を伴います。

まずは、誰かの身体で猛威をふるうウィルスの観察、それを可能にするセーフティーレベル4の施設、専門的知識を持つ、勇敢で且つ献身的な人材が最低限必要でしょう。

エボラウィルスを高度に監視された状況の下で、研究に適した形で捕まえなければならないのです。

科学的データ以上に人命救助が優先される、危険であり、悲惨でもある現場で集められたデータは、それでもいくつかの示唆を与えてくれます。

エボラウィルスによる免疫抑制という考え方もそのひとつです。

最近になって各種の論文でも取り上げられているようですが、エボラウィルスは人間の免疫システムに干渉し、免疫反応に不可欠な「インターフェロン」というたんぱく質の生成を阻止することで、ウィルスは妨害される事なく複製を繰り返し、人体に致命的な影響を与えるのではないか、というものです。

エボラ研究

治癒・生き延びる鍵は抗体

ウィルスに感染した患者が死んでしまうか、もしくは回復して生き延びるかを決めるのは、感染したエボラウィルスの量ではなく、患者の血球が感染に反応して抗体をつくり出したかどうかで決まる、ということを発見したのは、ガボンにあるFranceville医学研究国際センター(CIRMF)のエリック・M・ルロワが率いるチームです。

ルロワと彼の同僚たちは、この研究成果を発表しました。

そして、他にもいくつか重要な指摘をしています。

第一に、フルーツコウモリがエボラウィルスの保有宿主である可能性が高いが、必ずしも唯一の保有宿主ではない、という事。

おそらくエボラウィルスを保有する別の動物が存在しており、その種はとっくの昔にエボラに適応している、という事。

エボラが原因で多くの人が死んだが、その数はゴリラの死亡頭数にははるかに及ばない事などです。

人獣共通感染症

エボラウィルスは人獣共通感染症(人間に伝染する動物感染症)であり、腺ペスト、狂犬病、ライム病、インフルエンザのすべての型も人獣共通感染症です。

ある種から人間に飛び火する病原体の活動は決して珍しいものではなく、現在知られている感染症の60%は日常的に人間と動物の間を行き来しています。

驚いた事にアフリカには今でもエボラウィルスの存在を認めようとしない地域住民が少なからずいるそうです。

アフリカ中央部の熱帯林地域の住民の多くは、野生動物の肉”ブッシュミート”を重要なタンパク源としています。

これは彼らの食文化でもあり、他国の人間が地理的風土や生活環境に根ざした、その国の伝統的な食文化を批判することは大きなお世話ですが、近年、ブッシュミート消費が生業の域を超えて商業取引の対象になっています。

国の法律による規制もあまり効果はなく、人口増による需要の高まりや、魚、鶏肉などのほかのタンパク源より価格が安いなどの背景もあるようです。

ウィルスの戦略

村でエボラによる死者が多数出た時も、「悪霊の仕業」による得体の知れない新種の病気とみなし、医師や獣医師の言葉には耳を貸さず、むしろエボラは「自分たちにブッシュミートを食べさせないための白人たちのデマだ」と主張しました。

エボラウィルスの感染拡大に歯止めがかからなくなるのには、こうした問題もあるようです。

人獣共通感染症。

流行と、次の大流行の間に何年も姿を消したように見えますが、その病原体は間違いなくどこかに潜んでいて、保有宿主と共に辺りをうろついているかもしれません。

いつ、ほかの種に飛び移るか、予測不可能なだけに不気味な存在であると言えます。

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