ヘイフリックの限界

『寿命への挑戦』を考えるとき、”ヘイフリックの限界”という壁に突き当たります。

Hayflick limit

ヘイフリックの限界とは1950年代にスタンフォード大学の解剖学教授であった、レナード・ヘイフリック博士が行った実験成果のことで、この研究によって人間の胎児の細胞を培養しても一定の限界を超えると増殖が止まってしまう事がはじめて確認されました。

どれだけ注意深く培養しても、約50回も細胞分裂を繰り返すと、例外なく死んでしまうのです。

細胞の寿命の発見につながったこの実験の成果は、ヘイフリックの限界と呼ばれ、老化研究の中でもとりわけ重要な実験的成果とされています。

最長寿命と平均余命

同時に、「条件さえ整えば人間の細胞は永遠に自己分裂を続ける」としていたアレクシス・カレル博士の説を覆し、人間の細胞の不死への望みは決定的に打ち砕かれました。

生物学者たちの間では動物がどれだけ生きるかについて2つの尺度が使われています。

1つは「最長」寿命で、ある種が最長でどれだけ生きられるか、をあらわし、もう1つは「平均」余命といって、ある種の個体が自然に生活した時、普通どれほど生きるかをあらわしますが、通常、この2つの数値には大きな差が生まれます。

鳥や小動物平均余命といっても、これらの生物は生殖可能な年齢に達するまでに半数かそれ以上の個体が死んでいきます。象やザトウクジラの最長寿命は凡そ70歳ですが今のように汚染された海に暮らしていると、その新生児の平均余命は2~3年くらいと推定されています。

最も不死に近い生物はプランクトン、アメーバ、藻類などの原始的な生命体で、その構造があまりに単純なため老化など起こりません。自分自身をそのまま複製し続けるため、個体は死んでもDNAは生き続けるのです。癌になる心配もアルツハイマーに侵される心配もありません。

老化を打ち負かす?!

1990年にウィスコンシン大学の研究者たちが行ったある研究が注目されました。

61歳から81歳までの老人の小グループに成長ホルモンを注射したところ、急激に肉体年齢が若返った、というものです。注射を続けた6か月の間、筋肉量や身体強度が高まり、体脂肪は減少し、記憶その他の脳の機能が改善しました。少なくとも治療を継続している間は・・・。

この法外に高額な治療をやめると、また老化が始まり、身体も徐々に衰えはじめます。永続的な効果は何も残りませんでした。

逆に長期的に成長ホルモンを注入するために起きる副作用というリスクは小さくないでしょう。化学物質によって一時的に若返りの奇跡を手に入れても身体の叡智が破壊されては無意味です。

ホルモン治療と共に遺伝子工学も老化を打ち負かす希望の星として期待されています。

テキサス大学の分子生物学者マイケル・ウェスト博士は組織培養された細胞から老化を早める2つの遺伝子を分離することに成功しました。

M1及びM2と名付けられたそれら2つの遺伝子のスイッチを化学的にオンにしたりオフにしたりすれば、人工的に老化の過程を逆行させたり早めたり出来る筈、と考えたウェスト博士は、この老化遺伝子を操作できる薬を発見しようとしましたが、癌と闘うためのインターフェロンと同じように恐ろしい副作用がある事が分かってきました。

実験室レベルでの遺伝子操作で寿命を延ばすことが出来たのはショウジョウバエや酵母菌、回虫くらいのもので、臨床的に役立つようになるまでにはなお長い道程が残されているうえ、今日の遺伝子工学では骨髄移植といった大きなリスクをともなう手術も必要になります。

ほとんどの人は老人の健康を回復したり、寿命を延ばしたりするのは医療のおかげだと信じていますが、実は長寿の実現に現代医療が果たす役割は年々少なくなっています。

例えば癌など疾患も早期発見のおかげで以前より患者が長生きしているように見えるかもしれませんが全体としてみると明らかに生命を長らえていません。もし長らえていたら癌患者は以前より年をとって死んでいるはずなのですから。

心臓病の2大手術法はバイパス手術とバルーン法による血管拡張術ですが、この高額な手術で平均寿命が延びたという証拠もありません。

関節炎、糖尿病、骨粗しょう症といった慢性疾患に対してはまだ効果的な治療法さえないのです。

生活不活発病にならないために

「老いれば誰しもがボケる」という俗説

上手に年を重ねるという事は単に病気を避けるということではありませんし、それなりの決意や日常的努力が必要です。医療にその役割を期待することが出来ないのは明白です。

これらの疾患と同じか、場合によってそれ以上に恐れられているのが認知症です。

現在日本では認知症を引き起こす原因のうち、6割以上がアルツハイマー病だと言われています。65歳でアルツハイマー病の徴候が見られるのは10人に1人。この数が年齢と共に増加するのは確かですが誰もがこの病気に侵されるわけではなく、むしろこの病気の発見は「老いれば誰しもがボケる」という俗説を否定したのです。

年齢と叡智を結び付けて考える文化は世界中にあります。

老化→脳の衰えという安直な仮説の根拠は、一般に人間の脳は年をとると年に約100万ニューロンを失うという事実に基づいていますが、カリフォルニア大学のロバート・テリー博士によると、脳の中でも主要な3つの部分では特にニューロン密度が低下することはない、として大きなニューロンの減少は小さなニューロンの増加で相殺されると結論付けています。

更に最近の研究では減りはしても増えることはないと考えられていたニューロン中のDNAがダイナミックに活動し、脳細胞が増える可能性も指摘されています。

長寿と運動

ハーバード大学のチームが1万人以上の男性と3千人以上の女性を対象に行った運動と健康維持の相関関係を調べた調査は運動嫌いな人に不利な結果になりました。

8年間の追跡調査で明らかになったのは1日30分歩く程度の運動でも寿命の延びに大いに貢献すること、男女とも運動をしない人たちの死亡率は毎日歩く人たちの2倍も高かったことなどです。

健康維持のためなら毎日何キロも走る必要はなく、水泳ならプールを1往復する程度、エレベーターの代わりに階段を上り下りすると、1階分で4.5カロリー消費する。小さな数字ですが階段の上り下りはとても良い有酸素運動で、フィンランドの調査報告によると1日に25階分の階段を上がる人には著しい体調の改善が見られました。

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