本当に重視すべき医学的根拠(エビデンス)とは  「EBM:Evidence- Based Medicine」宣言

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医学的根拠とは

「人はどうして病気になるのか?」、「病気の原因とは何か」。

今や指先から一滴の血液を採取することで、中性脂肪のチェックからからゲノム解析(遺伝子検査)までを含む数百項目の検査が可能になり、様々な病気の発症リスクや体質、個々の潜在能力までを高い精度で診断できるようになりました。

検査の精度

一方、近年大きな社会問題になった健康被害にかかわる事例、2011年の福島第一原子力発電所事故の「放射線被曝による小児の健康への影響」や2013年の水俣病認定に関しての最高裁判決、PM2.5などの大気汚染物質による健康被害の問題など、いずれも医学的根拠が問題になっています。

医師の信念を立証する証拠が時代遅れになりつつあるようです。

3者の主張

「医学的根拠とは何か(岩波新書・津田敏秀医師・¥720)」によると歴史的には医学的根拠は3つ存在します。

直感派

1つは自らが経験した臨床行為とその結果を自己流に、または直感的に解釈し、医師としての個人的な経験を重んじる「系統的でない臨床経験」に基づく、著者の津田医師の表現を借りると(直感派)と呼ぶことができる系統。

例えば、外科の教授がいかに卓越した個人技として手術が上手くても、それをデータにして分析し、そこから一般法則をみつけだし、それを言葉や数字で他者に伝えることが出来なければ優れた職人芸の域を出ず、技術が個人に留まってしまい、科学への道は開かれません。

メカニズム派

2つ目が病気は特定の原因から発生し、決まった条件に従って決定論的に進行するという「メカニズム決定論」を唱える(メカニズム派)。

医学的根拠として「病態生理学的合理づけ」、つまり動物実験やその他遺伝子実験などの生物学的研究の結果を重視し、ミクロのレベルほど科学的であると信じる要素還元主義で原因と結果が1対1対応で見える、と考えます。

しかし、メカニズムでは治療効果ありのはずなのに、臨床研究で逆効果だった事例は多く、医学系の国際誌などでも度々報告されています。

急性心不全死亡と抗不整脈薬の関係や乳児突然死症候群(SIDS)とうつ伏せ寝の関係、外傷からの回復における安静の関係などがそうで、他にも多数見られます。

試験管の中で完結するような研究でも人間への応用を考えるのであれば、結局は人の臨床データを数量的に分析しなければそのメカニズムが真に有効かどうかわからない、ということです。

数量化派

最後が数量化によって科学的分析を追及する現代疫学を基礎とする系統。統計学の方法論を用いて人間のデータを定量的に分析した結果を重視する系統。

統計学とリンクした疫学において、病気になった人だけを意識するのではなく、まだ病気になっていない人を含む人口全体を意識するのは割と重要なことです。

病院の外来を訪れた患者や入院した患者がどのような人々の間から発生してきたかを注視します。

そして比較します。要因を持っている人口の指標と、要因を持っていない人口の病気の指標とを比較するのです。

個別の観察に留まらず、ある対象群を適切な方法で平均化し、その経験を一般的な判断に用いることを重視するのが(数量化派)の考え方です。

EBM宣言

現在の世界の医学研究の方向を決定付けたのは、「科学的根拠(エビデンス)に基づいた医学(EBM:Evidence- Based Medicine)です。

1992年にアメリカ医師会雑誌に掲載されたカナダのマックマスター大学(伝統的に医学に強いとされています)のEBMワーキンググループによる論文「Evidence-Based Medicine:A New Approach to Teaching the Practice of Medicine」は「EBM宣言」とも言うべき文書で、その冒頭において医学・医療の根拠に関してこのように述べています。

根拠に基づいた医学は、直感、系統的でない臨床経験、病態生理学的合理づけを臨床判断の十分な基本的根拠として重要視しない。そして臨床研究からの根拠の検証を重要視する。

つまり、数量化派のアプローチを支持するということです。

医学的根拠

日本医学会の現状

もちろん、医師の個人的臨床経験からのインスピレーションや人間の分子構造・遺伝子構造を調べ上げ、病因物質に迫ろうとするメカニズム派の取り組みも無意味ではありませんし、実際、医学はこれら3つの根拠のうえに成り立っているのですが、医学にとっては間接的証拠にすぎず、EBM宣言においても「医学的根拠として重視しない」とされています。

このように、国際的にはこの3つの根拠の優先順位に関しての合意形成は済んでいますが、日本ではまだ議論にさえなっていないようです。日本の医学研究者や医師は3つの根拠の内、人のデータの数量化以外の2つを信じ続けています。

疫学の重要性

医学の世界でよく耳にするのは「結核の原因は結核菌の感染である」とか「これこれの遺伝子を持っているとこれこれの病気に罹りやすい」というメカニズムの研究に基づいた説明です。

ばらついた自然現象を「数値化され統合された経験」として定量的な一般法則や理論へと導く手段である統計学的方法論を駆使し、個々の臨床経験を数値化させる疫学こそ医学的根拠として最重要視するべきである、という著者の意見は説得力のあるものです。

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