”胃ろう”という選択 老化と寿命 自然の摂理と生命の尊厳

高齢者に付き物の誤嚥性肺炎

老人はよく誤嚥性肺炎を起こします。高齢者に付き物、と言ってもいいでしょう。

高齢になると身体の反射機能が低下するため、食べ物を飲み込む時には閉まっているべき筈の気管の出入り口のフタ(喉頭蓋)が上手く機能せず、本来食道を通って胃に運ばれる筈の食べ物が気管に入ってしまう「誤嚥」が起こりやすいのです。

老人

誤嚥とともに細菌に感染しやすくなり、肺炎を起こします。

これが誤嚥性肺炎です。

とにかく医療行為をしないと保護責任が問われる

元気な時なら同じことが起きても「喀出」、つまり咽ることで吐き出すことが出来ますが、反射が低下した高齢者、特に認知症の人は中枢機能の低下も伴うので、より誤嚥が増え、肺炎も増えます。

特養(特別養護老人ホーム)などで入居者の容態が悪くなった場合、職員が配置医に連絡しますが、ほとんどの場合は勤務医や開業医との兼務なのですぐに駆けつけることが困難なため、結局は病院に送られることになります。

担当医師はそれが誤嚥性肺炎であれば、とにかく肺炎を治すことだけを考え、それが良くなると今度は消化器外科へと回されます。医師

ここで医師は判で押したように胃ろうをすすめます。

「とにかく無事に水分や栄養を補給できる様に」というわけです。

本人に意思の確認が取れない場合は家族による代理確認になります。

DPC制度(入院医療費の包括支払い制度)による在院日数の問題も

確認といってもほとんどの場合は医師の方針に逆らうことは困難で、もし、断ろうものなら「餓死させることになりますよ」「保護責任が問われますよ」などと言われるかもしれません。

「これは、病気ではなく老衰の現われなんだから、無理な延命処置などせず、心安らかな終焉を迎えさせてあげたい」内心、そう考える医師はいるかも知れませんが、それを実際に患者やその家族に勧める勇気のある医師は少ないでしょう。

多くの医師は、たとえ患者があきらかに老衰の終末期であっても、延命の方法があれば医療行為をしないと保護責任者遺棄致死罪、もしくは不作為の殺人罪に問われてしまうのではないか?という懸念を多かれ少なかれ抱えているからです。

病院とすればお腹に開けた穴から胃の中に人工栄養を流す胃ろうが、目の前の患者の症状を改善する最善の措置と考えます。

もっと言うと、病院には平成15年に導入されたDPC制度(入院医療費の包括支払い制度)による在院日数の問題があり、必要以上に入院期間が長くなると病床稼働率が下がり、病院の収入に影響がある為、早く次の施設へ移ってもらう必要があるのでしょう。

胃ろうが悪者ではない

もちろん、胃ろうがすべて悪者だと言っている訳ではありません。

それは必要で十分な栄養や水分や医薬品を摂取し、患者の生命を維持、向上させる目的で行われる医療行為であり、それで改善できる病態であれば、当然手を尽くすべきです。

口から食事が摂れない人、飲み込む力の無い人のために水分、栄養分の補給する方法に経静脈栄養法と経管栄養法があります。

腕の皮下静脈や心臓の横の大きな静脈に高濃度の栄養剤を入れる経静脈栄養法では、カテーテルという異物が身体の中心にある血管の中に入っているので、もし細菌が侵入すると重篤な敗血症を引き起こします。

一方の経管栄養法は胃や小腸に直接栄養を入れる長期栄養管理法で、胃ろうはこちらの分類に入ります。

静脈に入れる場合と比べて厳密に殺菌しておく必要はなく、しかも自然な食べ物に近いものを、もともと食べ物が通る通路にいれるので、身体の回復にとっても良い方法です。

老夫婦

老化と寿命という自然の摂理と生命の尊厳

問題は老化と寿命という生命の摂理に対して、医療がどこまで関与するのか、ということです。

延命至上は安らかな終焉を妨げる事もあるのです。

それは高齢者の切り捨てでしょうか?

脳と胃は密接に繋がっています。

口から食物を美味しく味わって食べる、という喜びを取り上げられると生きる喜びが半減するのです。

胃ろうを付けると多くの高齢者は脳の機能が低下し、胃の機能も低下していき、いずれ自分で容易に体位を変えることができない状態になります。

栄養を、ただ機械的に胃に注入されると消化管粘膜も萎縮していくことでしょう。

呼びかけに対する反応が弱くなる人が多く、ほとんど反応を示さない人や始終眠っているような時間も増え、手足もだんだんと拘縮していきます。

胃ろうで肺炎は防げない

しかも、誤嚥性肺炎を防ぐためにつけた胃ろうなのに、完全に防げる訳ではありません。

胃の中のものが食道を逆流すれば、やはり喉まで上がってきます。

喉の反射が落ちた高齢者は気管の蓋が閉まりにくく、やはり誤嚥性の肺炎を引き起こします。

「こんな状態になるなら、胃ろうの手術に同意はしなかった・・・」

「無理やり生かし続けることで、苦しめているのではないか・・・」

高齢で認知症の患者に胃ろうを付ける選択をした家族はそんな思いを抱くかもしれません。

しかし、胃ろうを付けない選択をした親族もまた、「十分なことをしてやれなかった」「私が生命を縮めてしまったのでは?」という思いに苦しむかも知れないのです。

その時に慌てないために、前もってしっかりみんなで話し合っておく事をお勧めします。

もはや口から食べられない認知症高齢者の七割に胃ろうを付けているような国は日本だけです。

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